損害賠償の減額
 

損害賠償の減額事由

損害賠償の制度は、被害者の方に発生した損害を加害者側に金銭で賠償させるというものです。

 しかし、被害者の方に発生した損害のすべてが賠償されるわけではなく、損害賠償額から一定の割合で賠償金額が減額されることもあります。

 損害賠償額が減額される事由として、下記の4が挙げられます              

 1、過失相殺
 2、無償同乗(好意同乗)
 3、損益相殺
 4、素因減額

1)過失相殺

1.過失相殺とは 

  過失相殺は、不法行為の損害の公平な分担という観点から、被害者の過失を考慮して加害者の賠償額を減額する制度です。例えば、交通事故の全体の損害額が1000万円で、被害者の過失割合が30%と認定された場合には、被害者は加害者に700万円しか請求できなくなります。
 被害者の損害回復にとって、この過失割合がいくら有るかは賠償額に大きな影響を与えることになります。

2.交通事故における過失割合認定の基準

  交通事故における過失相殺は、実務上(裁判所、弁護士、保険会社等)、「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準 別冊判例タイムズ第16号」(東京地裁民事交通訴訟研究会編)に基づいて被害者と加害者の過失割合を認定して行っています。

  この基準は、「第1 歩行者と四輪車・単車との事故」、「第2 四輪車同士の事故」、「第3 単車と四輪車との事故」、「第4 自転車と四輪車・単車との事故」、「第5 高速道路上の事故」から構成されており、273の事故形態別に基本となる過失割合と修正要素が記載されています。
 例えば、交差点に直進四輪車と右折四輪車がともに青信号で進入して衝突した場合、基本となる過失割合は、「直進20:右折80」とされています。修正要素として右折車に「合図なし」、「徐行なし」等が定められており、これに該当する場合は直進車の過失が10%減らされるといった具合に適用されます。

  このため、まずは実際の事故形態が判例タイムズのどの図に該当するのか検討することが過失割合の交渉を進めていくときに重要になります。
 
適用する図が異なれば、基本となる過失割合はもちろん修正要素にも違いが出てきますので注意が必要です。事故形態を特定するにあたっては、警察の作成する実況見分調書がもっとも重視されます。これは保険会社が弁護士を通じて取り寄せて過失割合を検討することがありますが、被害者の方も事故を扱った警察に送致日・送致番号・送致先検察庁を問い合わせて、送致先検察庁で謄写・閲覧することが可能です。

 

2)訴因減額

1.被害者の素因による減額

  被害者の肉体的・精神的な要因(素因)が損害の発生または拡大に寄与した場合、賠償額の減額事由になるか問題となることがあります。

  素因は、教科書的には、「病的素因(疾患)」、「加齢的素因」、「心因的素因」に類型化できるとされていますが、裁判では、加齢的素因を除いて減額事由になるとしています。したがって、被害者の疾患や心因的素因が損害の発生・拡大に寄与したと認められる場合には賠償額が一定割合減額されることになりますが、被害者の肉体的な要因が問題となっている場合には、「疾患」に該当するのかどうか、仮に「疾患」に該当しても損害の発生・拡大に寄与したと認められるのかどうかなど慎重な検討が必要になってきます。

  なお、減額のための法的構成は、「過失相殺の規定の類推適用」によって減額がなされています。

 

2.素因減額の取扱い

  素因減額は、自賠責保険には適用されません。自賠責保険の減額事由は、自賠責保険の支払基準上、「重大な過失による減額」と「受傷と死亡又は後遺障害との因果関係の有無の判断が困難な場合の減額」の2点に限定されているためです。
 も
っとも、自賠責保険における後遺症害の加重の扱いの考え方に類似しているものと思われます。

  一方、任意保険では素因減額が適用されますが、適用された場合には減額の必要性等慎重な検討が必要です。

 

 

 

3)無償同乗

1.無償同乗(好意同乗) とは

  無償同乗(好意同乗)とは、一般に好意または無償で他人を自動車に同乗させることをいいますが、その際に事故が発生した場合、被害者(同乗者)の賠償額が減額されるかどうかという問題があります。 

 

2.無償同乗(好意同乗)による減額の取扱い

  無償同乗(好意同乗)による減額は、自賠責保険においては適用されませんが(自賠責保険の減額事由)、任意保険および裁判では適用されることがあります。

  いずれにおいても、無償同乗(好意同乗)それ自体を理由として減額されることはありません。同乗者に帰責事由がある場合(好意同乗者が運行をある程度支配したり、危険な運転状態を容認又は危険な運転を助長、誘発した等の場合)にはじめて減額の適用が問題となります。

  減額する場合、全損害額について減額するケースと、慰謝料の算定にあたり減額または同乗経過を斟酌する裁判例があります。

 

4)損益相殺

1.損益相殺とは   (参考:交通事故判例100選「別冊ジュリストNo,152第四版」150頁~)

  事故が起こると損失だけでなく、利益を得られる場合があります。被害者または相続人が事故によって何らかの利益を得た場合、この利益が損害のてん補にあたる場合に損害賠償額から控除されることを損益相殺といいます。  

 2.控除された例

 (1)      

 自賠責保険の損害賠償額、政府の自動車損害賠償補償事業てん補金

 (2

 受領済みの各種社会保険給付

 (3) 

 遺族年金 ( 損害と利益の間に同質性がある限り公平の見地から )

  ※ 遺族年金の損益相殺は、母親が受給権者でその子供が事故に遭った時等ではなされない場合も有ります。ご相談ください。

 3.控除されなかった例

(1)

自損事故保険金・搭乗者傷害保険金                                                       

2

生命保険金・傷害保険金

(3)

労災保険上の特別支給金・未受領の各種社会保険給付

4)

生活保護法による扶助費

5)

雇用対策法に基づく職業転換給付金

6)

自動車事故対策センターからの介護料

7

社会儀礼上相当額の香典・見舞

  

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